バンワークで高知に向かう途中、宝塚北サービスエリアで「北極星監修のチキンオムライス」を食べた。北極星は、オムライスの元祖とされている店。どんな味だったのかが気になっていたが、タカラヅカキッチンにこの料理があると聞き、食べてみようと思ったのだ。
皿の上のオムライスは、形が端正だった。つるんとした薄焼き卵がふわりとライスを包みこんでいて、いかにも正統派。味は奇をてらわず、いわゆるオムライス。ただケチャップはただのケチャップではなく、あまり酸っぱさがない、甘く優しい味だった。派手な特徴があるわけじゃないのに、どこか安心する味わいだった。
気になったのは、添えられた紅生姜だ。「お寿司屋さんのガリみたいだな」と感じた。いわゆる「オムライス」に添えられたガリ。これが私の印象だった。
そこで、「北極星」のオムライスについて調べてみることにした。元々は「パンヤの食堂」という名前で1922年に大阪・汐見橋で誕生したらしい。当時の10銭均一の洋食屋として人気を博し、庶民の胃袋を支えた店だった。
1936年には政治家の永井柳太郎氏が「北極星」と命名。「生活の道しるべに」との願いが込められていたという。北橋茂男氏の出身地・北陸への思いも重ねられたというから、名前の響きにロマンを感じる。
驚いたのは「ホルモン料理の元祖」だったということ。昭和初期にホルモン煮込みを開発し、商標登録までしていたようだ。オムライスの印象が強い店なのに、実は内臓料理の普及にも一役買っていたらしい。
戦時中には戦闘機「北極星号」を寄付するほど勢いがあり、空襲で多くの店を失ったあとも復興し、1989年には心斎橋本店をオムライス専門店として再スタートした。100年を超える歴史の厚みを思うと、あの紅生姜の存在も妙に納得がいく。
しかし、「オムライスの元祖」は「北極星」だけではない。実はもう一つ、元祖オムライスが存在する。東京・銀座の「煉瓦亭」が明治時代に生み出したとされるライスオムレツは、卵とご飯を混ぜて焼く「混ぜ込」みスタイル。一方で、北極星が確立したのはケチャップライスを薄い卵で包む「包み込み」スタイル。前者は料理そのものを生んだ「生みの親」、後者は現在の形を整えた「育ての親」と理解した方がわかりやすいかもしれない。
宝塚北SAのオムライスは、この歴史をどこまで受け継いでいるのだろうか。本店とはきっと味も空気も違う。その違いを知りたくなった。こうしてグルメ探訪の旅はどんどん深まっていくのだろう。
